銀盤にてのコーカサスレース?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


いつまでもどこまでも果てしなく続く気のする、
単調なばかりの長い長い階
(きざはし)を、
か細いヒールをものともせず
休みなく軽快に駆け上がっている人影が二つ。
淡調な空間の中をただただひたすら駈けている。
すんなりとか細い肢体へ張りつくようなワンピースは、
二の腕がふんわりと膨らんだロマンチックなデザインがお揃いな、
青基調のと黄色基調という色違いのペアルック。
スカートと呼ぶには随分と丈の短いボトムを、
その両サイドに華やかなフリルの波にて飾った、
それはそれは愛らしいいでたちで。
まとっている二人もまた、その可愛らしいいでたちに相応しく、
十代の瑞々しさに双眸をきらりら潤ませており。
きっと表情豊かなのだろう端正なお顔を、
だが今は、
何にかへの決意を秘めた、凛とした冴えで鋭く研ぎ澄ましており。

 「…あっ!」

不意に何かの影が行く手へとよぎっていったものだから、
あまりの唐突さに気勢をはじかれたか、
レモンイエローの衣装を身につけていた少女が
危うくつまづきかけての たたらを踏んでしまったほど。
腰の両脇にお花のように咲いているフリルをひらリひるがえし、
こちらはアクアブルーの衣装をまとっていた金髪の少女が、
ギョッとすると立ち止まってしまった連れを振り返る。

 「ヘイさん、大丈夫?」

その場へ片膝つきかけたほど、
つんのめったらしかった赤毛の少女を気遣ったところ、

 「ええ、大丈夫ですわ。」

にこぉっと笑ったお友達だったものの、

 「ダメですよ、シチさん。
  このカッコの時は私はピュアトパーズです。」

チッチッチッと、
立てた人差し指をワイパーのように振って
しっかり訂正して見せるところは 結構余裕かも。
そんな彼女だが、おもむろに口調を引き締めると、

「あと少しです。
 この迷宮の階を上り詰めたところに、憎っくき敵の総大将が。」

そうと確かめるように言い、
勿論と相棒がこっくり頷く。
真摯な眼差しを見交わした少女ら二人が背負うのは、
よその次元から虎視眈々と、
こちらの世界を狙っている超能力集団とその総裁との対峙だ。
人々の心の中のどこかに必ず、少なからず抱えている、
負の傾向や心持ちにつけ込んでは、
増幅させるよう煽り立て、
怪人のような存在へと変身させてしまう悪人たちであり。
そんな人々を浄化して、元の姿へと戻しつつ、
相手の陣営を突き崩してきた少女らだったが、

 「よくもここまで辿り着いたものよの。」

どこか嘲るような声がして、二人の少女がハッとすると周囲を警戒する。
既に異次元空間なのだろう、あたりは霞が掛かったような淡色の世界で、
だが、階段が仕掛けのある迷宮のように延々と続いていた訳ではない証し、
霞の先に人影が立ちはだかっているのが透かし見える。

 「あなたたちはっ!」

片足引いてのそれぞれで身構えれば、
霞も一気に払われて、その先にいた人影も輪郭が鮮明に現れる。
大柄な片やは、カラシ色とうぐいす色の粋な小袖を二重に重ね、
うなじを大きく抜き衿にしてまとった
和装の女性…にも見えなくはないけれど、

 「でたわね、偽女ギツネのゴロベエ。」

キッと鋭い眼差しでピュアトパーズさんが睨み据えたるお相手は、
ふふふんとおしろいを塗ったお顔を不敵にほころばせ、

 「偽は余計よ、お嬢さん。」

良く響く低音ながら、婀娜な口調で言い返し。
そしてその傍らに立っていたのが、

 「お前らがここを突き止めてやってくるのは時間の問題と判っていたさ。
  こちらとしてもそろそろ一気に方をつけたかったのでな、
  だから妨害なぞせず招き入れてやったまでよ。」

随分と高い衿の軍服をまとった黒髪の男、
鋭角的なお顔を鋭く歪ませる彼へは、
アクアマリンの衣装を着た少女が、
負けじという勢いでそのお顔を険しく尖らせる。

 「ヒョーゴ提督、アタシたちの仲間を返しなさいっ!」

怒りと苦痛の綯い交ぜになったようなお顔になって、
高いお声を上げたサファイアさんへ、

 「仲間? 一体誰のことかな、それは。」

覚えがないような言い回しをしつつ、
そのくせ、片方の手を高々と差し上げると、指をぱちんと鳴らして見せる。
すると、どこからかそれは素早い影が舞い降り、
軍服姿の男の前へ、楯になるかのように降り立った痩躯の人影が一つ。
黒を基調にした重々しい、だが、
基本のデザインは対峙する二人の少女のまとった衣装と寸分違わぬ
フランス人形のようにペチコートを山ほど咥え込んでいるらしきミニスカートと、
二の腕まで覆うふんわり膨らんだ袖も愛らしい、そんないでたちの少女であり。

 「ピュアオニキス、こやつらを屠ってしまえっ!」

水晶の大飾りのついた杖を振り、
対面する少女らを指した提督の指示に従って。
後から現れた、こちらも金の髪した表情の乏しい少女は、
衣装の袖口に仕込んでたらしいスライドスティックを、
勢い良く腕を振るうことですべり出させると、
細かいレースに縁取られ、手の甲までを覆う袖口がいかにも可憐な、
白くて小さな手へそんな得物を握り締め。
ヒールの足元を物ともせずに、中空高くその身を躍らせ、
立ち向かう少女らへと飛び掛ってくる。

 「キュウゾウっ!」
 「シチさん、違う。ピュアガーネットです。」

あの提督の洗脳術により、
衣装も真っ黒に染まってるほどに、悪の化身と化してしまった仲間。
軽やかな金の綿毛も愛らしく、
つんと澄ましたお顔が出来のいいビスクドールを思わせるよな美少女なのに。
戦いぶりもまた鮮やかだった、最強だったクールビューティ。

 「油断してはいけません。それはお強いガーネットさんです、よっ?」
 「…っ!」

かつての仲良しさんが襲い掛かってくる不条理へ、
身が固まってしまったらしいサファイアさんを庇うよに。
トパーズさんが、
ニッコリ笑いつつ“ぱんっ”と開いたのは特殊なアンブレラ。
骨の部分じゃあない、布の部分が当たった筈なのに、
それでも相手の強靭な攻撃をがっつりと受け止めて揺るぎもしない。

 「ガーネットさんに戻らないなら、
  あたしも容赦は致しませんことよ? オニキスさんとやら」

その陰から響いた声がそうと紡ぎ、
少しほど押し返すことでやっとお顔の一部が覗いたトパーズさんだが、
口許は確かにほころんでいながらも、
パッチリ開いてちょっぴり力んだ双眸が、
釣り上がっての冷ややかなのが…何とも言えずに恐ろしく、

 「…怖いぞ、ヘイさんや。」
 「米侍、演技だ、演技に戻れ。」

ついつい相手の幹部二人までもがそんな素の声を返すほど。
あ、いっけな〜いと苦笑をし、仕切り直しとばかり、
傘をくるりとまわすことで、飛び掛ってきた相手の美少女を押し戻せば、

 「……。」

ごり押ししても効かぬと悟ったか、
一旦 元居た位置へと戻ったオニキス嬢。
そんな緊迫の対峙だったが、
その空間へと響いてきたのが、また別な男の声だ。

 《 オニキスはもはや我らの手駒。
   元に戻したければ、儂を倒すことだな、ピュア戦士たち。》

ハッとしたアクアマリンの少女があたりを見回し、

 「出て来なさいっ! 白夜叉カンベエ!」

負け戦の妄執が寄り集まった亡霊の鬼神だってことは、
アタシたちのお守りするイオ皇女が透視済みなのよっ…聞こえてる!?

 「勘兵衛様!!
  出てこないとアタシの方から乗り込みますよ!
  今日のスカートはいつものなんて比較にならない
  見せパン仕様のウルトラマイクロミニなんですからねっ!」

 「こらこらシチさん。」
 「〜〜〜〜。(シチ、どうした)」

いきなり取り乱したお仲間に、
トパーズさんはともかく、オニキスさんまでもが
焦って押さえ込もうと宥めに回る始末だったりし……




      ◇◇



 「…って、一体どういうお話ですか、これ。」
 「…?」
 「ほら、久蔵殿も“学園祭の続きか?”って。」

どこぞの美少女戦士のようなコスチュームになった仲良し三人娘が活躍中の、
CGとは思えない映像がモニターの中で展開中。
そういえば、学園祭のガールズバンド公演のおり、
彼女らが登場するための前振りとして使った映像も、
こんな風に美少女戦士風の仕立てになってなかったか?

 「いやほら、先日スケート場でのすったもんだがあったじゃないですか。」

こんなものを器用にも作れる人といったら彼女しかいない、
蜜柑色の髪をわしわしと掻き回している平八が、
モニターを覗き込んでたお友達二人から詰め寄られ、
えへへぇと微妙に照れてるような笑い方をし、

 「一部始終を録画していた防犯カメラの映像っての、
  アレからわたしたちの行動が暴露されちゃあ困るからって、
  壊れてたか回ってなかったことにして、
  ディスクを新しいのと取り替えたんですが。」

 「…ヘイさん、あのどさくさにそんなことしてたの。」
 「〜〜〜。」
 「そうですよね、油断も隙もありませんよね、久蔵殿。」
 「わたしにはそうまで以心伝心なお二人の方がおっかないです。」

丁度、前日に、
フィギュアの衣装がカワイイのどうのって話をしていたじゃないですか。
それでとググってあった可愛い衣装を着せてみて、
それから駆け回った映像をちょいちょいと細工したらこんなのが。

 「こんなのがって…もう。」

ちょちょいと落書きでもしたようなノリで、
あっさり言っちゃうひなげしさんなのへ、
あぁあと、どこか“しょうがないなぁ”と言いたげな溜息ついた七郎次であり。

 「…まあ、ゴロさんも不公平なしに敵方の幹部にされてたから、
  アタシらのみならず、勘兵衛様や兵庫せんせえへの
  とんでもない扱いへの不満は言いませんが。」

 「…だが、見つかっては。」

今回は珍しくも…
似たり寄ったりな天然さから同じような見解をこぼさなかった
ちょいと切れ者な紅バラさんだったのは、

 『兵庫がカッコよかった。/////////』

そこが嬉しかったので、
だっていうのに…大人たちに見つかっての
没収とか消去とかされるのは勿体ないと、庇いたくなったかららしくって。


  はてさて、
  “先日のスケート場でのすったもんだ”ってのは一体何のお話か。
  続きはしばし待たれい!
(こらこら)





NEXT


  *トパーズというと黄色や褐色だと思っていたのですが、
   アクアマリンのようなブルーのもあるそうで。
   そうかと思えば全くの無色のものや、
   逆に角度によって2色以上の発色をする、
   アレキサンドライトのような
   ミスティックトパーズというのもあるそうな。

    …そうじゃなくって。
(笑)

  またぞろ、何かややこしい噺を企んでるみたいです、このおばさん。
  あらびあんの続きはどうしたんだ もーりんさん。


戻る